部活訪問記

ほんとは発表スライドを作らなくてはならないけれどこの文章を書いている。

 

つい2日前の土日、かつて所属した部活動が定期コンサートをするというので、去年も銀行に寄るのが面倒でやめてしまった寄付金をまとめて納める目的も兼ねて訪問した。別に土日に何をするでもなく寝ている人生を送っているので、決断にはさして躊躇はなかった。

 

新潟の地と埼玉県は拍子抜けするほど近い。その日の午前中にもしお呼びが掛かったのなら、その足で午後には何食わぬ顔で合流できるくらいの距離だ。ーーー私が元来交通の弁の悪い地方に生まれ育ったからなのはいうまでもないーーータクシーを使用するのも厭わなくなった昨今、新幹線に上手く乗り継ぎさえ出来れば、渋谷とか新宿とか、そこらに行くのとモチベーションは何ら変わらない。それでも、現在の情勢上、大きな理由なしには行っていいものか多少は考慮するのだけれど。

 

ライブ会場は大講義室という場所で準備されていた。古くからそこでやるのが慣例で、3年生の時は一年間授業を受けた懐かしの教室である(3年生を2回と、その後の4年生も留年生が増えすぎたという事情で大講になったので実は3年間も利用したのでなおさら)

しかしどうやら大講義室はその古さから、私の卒業後立て替えられていた。真新しくなった無機質な講堂は全く知らない場所のようでもあり、大きく構造を変更してないためによく知っている場所の様でもあり不思議な気持ちになった。かつては冷暖房が完全に故障していて、夏冬は独房とさして変わらないのではと言っていたが、新しくなってもおそらく省エネの観点からそこまでクーラーが効いていなくて、「暑い…」嘆く後輩達に苦笑してしまった。

 

特に訪問の知らせは通達していなかったので、なんでお前がここに…?という戸惑いとも呆れともつかない歓迎を受けながら1番後ろの席に申し訳なく座って鑑賞する。1人、また1人と代わり番こに何かしらの声をかけにくる後輩たちは面白い。哀れなOBが寂しくないようにしてくれる優しさに感謝しながら、自身のあまりある異物感に笑える。

 

ここからは鑑賞における感想を書きます。

別に講評するような立場でもないので気になったバンドだけだけど…

 

まずはHump Back。別に何時に行ってもよかったのだけれどトッパーがこれだったので開始に間に合わせた。HumpBackは良いバンドだ。女性スリーピースの良さをこれでもかと前面に押し出している。私はそもそも女性ボーカルが好きなので、寄った意見になってしまうのだけれど。

スリーピースはその形態上、どうしても音が薄くなるので歌唱力、歌詞力が物を言う。もしくはリズム構成、曲展開、個人の技量とか色々要素はあるのかもしれないけれど、馬鹿みたいに売れるのはボーカルの唯一無二感だと私は思う。余計な装飾がない分、そこの浮きぼりがシビアだ。HumpBackはチャットモンチーという圧倒的天才没後(個人の好みが異常に反映されている)に登場してきた彗星で、「月まで」と言う楽曲でその才能を一発で世に知らしめた。音像がシンプルなことに加えて、構成もメロデも歌詞も余計な物一切なしの真っ向勝負。私は目の前で流れた名曲にただただ震えるだけだった。

結果として、HumpBackは初期衝動という完璧な掴みのその後の期待値が大きすぎて、他との差別化を図る2投3投でパッとしないであんまり話を聞かなくなってしまった気がする。加えて言うが個人の感想なので悪しからず。

それでも女子たちのコピー元に頻繁に選ばれるのはその単純明快でセンスのいい楽曲たちの力か。どれをとっても聴きやすく、大学のコピーバンドにはもってこいのバンドといえる。自分がギターを始めたころだったらきっとバンドスコアが容易に手に入る類のバンドなのにそこだけは可哀想かも。

後輩のコピーバンドもまさしくその(おそらく)王道のバンド少女たちによるものだった。ちゃんとしたライブハウスではないから仕方ないのかなと思ったけれど、強いて言うならギターが聴き取りづらく感じた。スリーピースはコードバッキングが全てだ。4ピースなら下げろ!と煩く言われるボーカルギターも、この時ばかりはでかく鳴らしても怒られない。HumpBackはその時代背景にもピッタリのナインスコードの多様で何処か物悲しい爽やかさを演出している。そんなコードにはクリーンに寄せたクランチを耳にいたくない塩梅に歪ませてかき鳴らさなくちゃいけない。ライブ経験が少ないとどうしてもギターの音が小さすぎて後で後悔したりとかそういうことが往々にして起きるのだけれど、歌がとても上手だっただけに残念だ。自分が弾いている音がどれだけ外に出ているか、ドラムに負けてはいないか、リハーサルで確認できる余裕が次は持てるといいなとそう思う。

 

1バンド目からそのコピバンについてじゃないこと書きすぎた。疲れてきたので短めに。

 

5バンド目でこんな時期にもしっかり出てる我らの顧問が笑える松任谷由美のコピー。

ギターのハルヒコ君の弾く卒業写真のバッキングにやられた。彼は私が在学していたときは確かメタラーだったはずなのだけれど、隣に立っている後輩に尋ねたら最近は趣味趣向が変わったとのこと。柄シャツインのお洒落な出立ちからも納得のギタープレイでやべーって声に出して言っていた。技術的に弾けないなんてことはないのだけれど、このタイム感を出すのは一苦労だなと。しかもソロのリバーブの使い方が上手い。私は単音にはリバーブ脳死でかけてしまうほどリバーブ信者なのでぎゃーいい音!と暴れまわりそうだった。クリーンのサウンドは歪みよりよく遠くに届く。大きくしすぎるとアタック音のニュアンスが難しかったり耳に痛かったり、はたまた圧が凄かったりと扱いづらいのだけれど、彼の音量コントロールは完璧だった。わかってる人の音だ…と。アーミングもよくて、後に聴いたら「適当でした」と恥ずかしそうに言っていたのだけれど、「適当」と言うのは存外難しい物だ。どう言う場面なら適当にその技術を応用できるのかを彼は分かっていると言うことだ。セッション向きだろなと思う。この前までメタラー(メタルを私が好まないと言うだけであって、それ以上に下げたいわけではない)だったことを考えると、その変化に感動した。

 

初日トリのストロークス。かつてストロークスをやろうねとメンバーを集めたが色々あってポシャった(理由は忘れた。仲違いだったような気もする)その思いを受け継いだドラマ君がメンバー総入れ替えで挑むという。今回直接私を呼んだのも彼だった。

ストロークスっていいよね(唐突)私も大学生1年生のはじめてのライブでストロークスのコピーをした。ステージの上から当時憧れだった脇坂さんという可愛い先輩が私のHard to explainの演奏に合わせて踊っていた姿をよく覚えてる(なんの話だ)

今回のコピーの選曲もセンス抜群。とりあえずラストナイトとか選んでしまいそうな所をYou Only Live Onceで開幕させるという尖り方。小躍りしそうなりなから聴いた。1stからはBarely Legal。私も絶対この曲を選ぶ。最高最高最高と心の中で繰り返す。横を見ると、馴染みのないUKガレージにどう乗ったらいいかわからん後輩たち。この光景こそがある意味コピバン冥利に尽きる。

他にはHeart In a Cageをやっていて私は選択しない曲なので面白いと思った。ギタリストは楽しいだろうな。ハッキリと音を分離させるのが難しそうだけど。そんなに3rdが好きなら、もし次の機会があったらレーザーブレードをやって欲しい。3rdで1番好きだから。

シメはReptiliaでアンコールはunder cover of darkness。文句なし。

付け足すならベースの女の子が無機質に演奏しててとてもストロークスっぽくてよかった。

 

2日目。

今回の二つ目の目的チャットモンチー

私はかつてこの部活でチャットモンチーをキーを馬鹿みたいに変更して演奏したことがあって、それを見てた当時の一年生の女の子がその時の選曲を2/3も被せてやると言うのだから、これは挑戦ってことでいい?なんて冗談を言いながらみる。

予想を遥かに超えた良演奏が響く。ちゃんと女子がボーカルをしてるというだけで勿論私より良いのは当たり前のことなのだけれど、一年生でイメージが止まっていた彼女はかなりしっかりギターを弾いていてびっくりした。耳コピでやったというシャングリラのコードは私の見慣れない抑え方をしていて(音は合っている)いったいどういうコピーをしたんだろうと気になった。今度教えて貰いたい。確かにその後のソロを考えると理にかなった抑え方だった。

湯気のソロを弾くべきかバッキングにすべきか本人のライブ映像とかをみて悩んだと言っていて、めちゃめちゃちゃんとコピバンしてるじゃん!!!ってなった。コピーってスコアも本人監修じゃない限り適当なことがとても多いし、アーティストに直接質問できるわけじゃないから、どうライブで表現してるかを視覚情報もフルに活用して研究する過程凄い楽しいよね。コロナで暫くライブなかったってのに、彼女はきっと上手になるよ。

 

Mr.Children

一曲媚びを売った以外はかなり攻めた選曲したんでとそうとうな前振りをしてきた彼ら。

セトリの一曲はなんと知らない曲だった笑

いや正確には聴いたことはある(はず)メロディの展開からして最近のアルバムの曲だろうなと思った。後であれなに?って聴いたらスーパーマーケットファンタジーに入ってると言っていたけど、比較的そのアルバムは聴いているので知らなくて恥ずかしい〜となったが、今確認したらそれらしい曲はないぞ?どうなってんだ笑

2曲目はLOVE。ここで爆笑してしまった。

私も確かに大好きだけど、最初のライブでそこをやるとは。しかも誰が選んだか速攻でわかってしまった(医学部の性質上、わりと年上のメンバーがいる)

3曲目もなんとAnother story。自分では絶対選択しない名曲たちにうわぁぁそうきたかと。ミスチルは曲のプールが広いので他人のコピーはかなり面白い。

ラストは名曲なのにタイトルが死ぬほどダサいと世界的にも有名な足音〜Be strong ほんとなんでタイトル付けたの?と美しいメロディを聴きながら考えていた。

センスのいい方々のミスチルコピーほんといいな。恐らく大半がなんとなくぼんやりしってるからこそ、お前らちゃんと聴いたことねぇだろという攻撃性を感じる(実際そういうMCをしていた)私だったらどんな選曲にするかなとちょっと考えてみた。

1 シーラカンス(京都音博より)

2 旅人(早い曲やりたいから)

3 幸せのカテゴリー(個人的趣味)

4 I'll be シングル(媚び枠)

かなぁ。どうですか?

これ書きながら、アイムソーリーとかワンツースリーとか男女問題とか天頂バスとか無限にやりてぇぇとなったので最初の段階で30曲候補があがったという彼らの悩みもうなづける。ミスチルのスコアが初めて買ったスコアのくせに一度もミスチルコピーやらなかったの悔やまれるなぁと心から思う。

 

大トリはおいしくるメロンパン。これも私が在学中にメンバー集めたのによくわからん軋轢でついに実現しなかったバンドのドラマーが別の2人に拾われて実現したそう。

最新のアルバム聴きました?1番好きなんですよ。そこから一曲やりますというボーカルのもと部長。私はキャラメルシティくらいで時間止まってるという。既に4曲中3曲を的中させてしまってごめんとなりながら聴いた。新しい曲は勿論聴いたことなかったのけれど、聴きながらそういえばhamelnという一個前のアルバムは聴いたなと関係ないことを考えていた。私がどれだけ、かつて熱中した音楽から離れてしまっていたかを緩く実感していた。

 

おいしくるのボーカルの子が転換の時間、私に話しかける。私のセンスの良さに絶対的な信頼を置いていて、Twitterに書かれた映画や音楽のカルチャーの類は全て履修していると。かなり恥ずかしい話を。

うちの部活は元々、メタラーたちが多く発言力も存在感も強かった。サブカルと言われる人種はごく僅かで、今にも消滅しそうだった。そんな中で自分の好きな音楽をやることを半ば諦めて消極的だった私だったけれど、私の発言や、趣向が後輩にこっそり伝達して、その子の発信力が大きいのもあって、サブカルチャーが根付きつつあるのを凄いことだなと感じた。部活の色というものは大きくは変化しないものだと思っていたのに久しぶりに訪れたラインナップは私好みの音楽で溢れかえっていて、あぁ今この時代に在籍していたらほんとにめちゃめちゃ楽しかっただろうなぁと過去の自分の境遇を憂う。

 

ハルヒコくんもいい例だ。彼は私に実はパークサイドモーテルこっそり応援してますと言ってくれた。かつての彼だったら本当に興味のない音楽だったと思う。部活の誰も本当の意味では興味がないだろうとタカをくくってたのであまり彼らをライブに誘うことはしなかったけれど、いざ卒業すると誰からもほんとは行きたかったと言ってくれて、お世辞でももっと早く言って一回くらい来てくれても…と思う。(発言に責任が伴わない今だからこそお世辞は言う物だとそういうことなのか?笑)

攻めた選曲をしたミスチルの終演後に恐らく2年生くらいの若い男の子二人組がハルヒコくんに「知らないけど凄いいい曲だったんでセトリ教えてください!」といったようなことを声を弾ませて言っている。

うちの部活は、あまり詳しくない人たちも知っている曲を選曲することが正義という謎の風潮があった。私は1年生のときからそれは間違っていると主張していた。1番有名な曲をやるという楽しさは勿論ある。それでもそのバンドのほんとに自分がやりたい曲をコピーするのが1番正義に決まってる。コピーバンドを出来る機会なんてそう多くはないし、大人になったらやっぱりほぼ機会を失う。やりたいことをやろう。知ってる曲だったどうせ下手なら盛り上がりはしないさ。逆にうまけりゃ、また本当にその曲が名曲なら、勝手に客はのる。そして知らぬ間にファンになってくれるものだ。そうでなくともメディはむりくり盛り上げてくれる謎の文化もあるんだからいよいよ関係ないだろう。そして、ごく稀に訪れる、本当に完璧な演奏した時の呆気に取られて静まり返った後輩たちも悪くない。そのために練習してるようなものだ。そんなスルーされてきた私の思想すらも、今の部活には芽吹きつつあって、今のここなら入りたいなぁと思ったのでした。

 

帰りの電車は十ニ国家の続きを一冊読んで、その面白さに震えたりと充実した週末でした。また遊びに行ってもよいならまたいこうかな。

 

それでは。